プリズム 〜1〜







春とは名ばかりの1月の夕陽はあっさりと沈み、冷たい風が人々を家路へと急がせる。


   「ちょっと遅くなっちゃったね」


   「ええ、急ぎましょう。望美」


   「敦盛さん、重くないですか? そんなに荷物を持ってもらっちゃって」


   「本当に。助かります」


   「いや朔殿、気遣いなど無用だ。この程度の荷」


   「敦盛殿に来ていただけるということで、却って買い過ぎてしまって


望美がふと立ち止まる。


   「? 望美?」


   「神子、どうかしたのだろうか?」


   「え? ううん、何でもない。ただ、ほら」


と指さす空に


   「星?」


   「うん、星がきれい」


   「そうね。あちらの世界では、こんな風に夜空を見あげたことなどなかったわ」


   「ああ、そうだな。こうしてのどかに星空を見あげ、美しいと思える時が来ようとは」


   「そうかな……。私は向こうの世界の方が、夜空の星は綺麗だと思ったけど。
    初めて天の川って見えるんだって感動した覚えがあるし」


   「そうね、こちらの天の川は……」


   「? どうしたの?」


   「クシュン!」


   「朔、寒いの?」


   「いえ、大丈夫y、クシュン! ああ、恥ずかしい。人前でくしゃみなどと」


   「恥ずかしがること無いよ。それに、手がこんなに冷たくなってる」


   「朔殿、そちらの荷も渡してはくれないだろうか」


   「いえ、そのような」


   「持ってもらえばいいよ、朔。で、その空いた手はこうして」


   「望美?」


   「神子、どうして手をつなぐのだろうか?」


   「そして、つないだ手はこうして」


   「あ、あなたのポケットに?」


   「朔のポケットは私のより小さいから。ね、暖かいでしょ?」


   「え、ええ、確かに。でも、歩きにくくないかしら」


   「うん、ちょっとだけね。でも、慣れればそんなことないよ。
    それにこれはね、仲の良い人にだけする、信頼と親切の証なんだよ」


   「信頼と親切……」


   「うん、そうだよ。あなたの手を暖めてあげたい、あなたの労をいたわりたいっていう気持ちを、
    こうやって手をつないで伝えるの。というわけで、私のこっちの手は敦盛さんがつないでください!」


   「わ、私も神子と手を!? あ、いや、そうだな。信頼の証であるならば、私も神子と手をつなごう。
    朔殿、すまない」


   「? 敦盛殿、どうかされましたか?」


   「私は、朔殿ももちろん信頼しているのだが、その、朔殿とも手をつなぐことは……」


   「あははー。敦盛さんと朔が手をつないだら、輪になって前に進めなくなっちゃいますもんね」


   「ああ。朔殿には申し訳ないのだが」


   「敦盛殿、お気になさらないで。
    それに、私と手をつないでいる望美が手をつないでいるんですもの。
    敦盛殿とも間接的に手をつないでいることにはならないかしら」


   「そうか。そうだな……。では、神子、よろしく頼む」


   「はい。
    (やったぁ! 両手に華だよ、えへへ。言ってみるものだよね。
     朔も敦盛さんも信じてくれてる。これから、毎日、手をつないじゃお)
    あ、そうそう。忘れてたんだけど、これって大人数ではやらないんだよ」


   「そういうものなの?」


   「うん。道をふさいじゃって危ないからね。
    大人数のときは、特に仲がいい人と2人くらいで手をつなぐかなぁ」


   「こちらの世界は、道という道に『車』が走っているから、自然とそうなったのかしら」


   「え? う、うん、そうだよ、きっと」


   「なるほど。細かく別れた方が安全ということか」










11/06/20 UP

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